滋賀県高島市の饗庭山法泉寺住職の吉武学です。
人生のお悩みや終活のご相談をはじめ遺言・相続・葬儀・埋葬のお悩みに「三つのそうだん」でお応えします。
マツコロイドでおなじみの石黒浩大阪大学教授が京都の高台寺と共同研究してアンドロイド観音「マインダー」を開発したという記事を見ました。
機械仕掛けの仏様なんて!と思う人もいるでしょうが、例えば浄土真宗の本尊である阿弥陀如来は智慧の光であり、光と言ってもみんなピンとこないので、人間に似せた姿で仏像として彫ってあるということを考えると、アリなのではないかと思います。
特にマインダーは、デコルテ部分以外はほぼ機械がむき出しで、余計な装飾がない分、感情が入りやすい存在になっていると感じます。
仏教の歴史から考えれば、お釈迦様の存命中に仏像はありませんし、最初の礼拝対象は仏様のお骨、仏舎利を祀ったストゥーパなどと言われています。
そこから仏様の姿が描かれた壁画が作られ、壁画が彫られて磨崖仏が作られ、紙や布に絵が描かれるようになり、そして独立した木や石を彫って仏像となっていきました。
そしてなぜか木や石の仏像以降は、他の素材に代わっていかなかっただけで、今新たに仏像の歴史が動いているのだと思います。
また仏像は、亡くなったお釈迦様や概念的な如来を表すバーチャルな存在なので、より現代人がバーチャルを感じるアンドロイドというのはマッチしていると感じます。
特に高台寺では、マインダーと対話する現実の人々をスクリーン上に投影することで、アンドロイドと平面に投影された人が対話をするという仮想現実な世界を演出しています。
新たな技術や考え方を導入しようとすると、反発が必ず起きます。
しかし、寺院は時代を先取って新しいものを取り入れてきました。
法話が小難しくてよく分からない、聞く気になれない、というのは昔も今も一緒です。
そのため、江戸時代、京都誓願寺の安楽庵策伝が法話の前に人々を少し笑わせる小噺を作り、ここから「落語」が生まれています。
家の屋根は今でこそほとんど瓦葺きですが、それは江戸後期以降の話です。
それ以前は板張りか桧皮葺き、または茅葺き屋根でした。
寺院では、中国から運んできた大切な仏像や経典を火事から守るために瓦葺きを取り入れました。
これが現代ではチタン屋根が開発され、東京浅草の浅草寺では既に本堂や五重塔に取り入れられています。
またバーチャルという点でもお寺は先進的です。
本堂の内陣の中に金箔が貼られ、煌びやかな様子になっているのをご覧になったことも多いと思います。
あの内陣の様子は極楽浄土を表していると言われています。
財宝が多い、というよりは、光に満ちあふれた世界、という表現です。
また華瓶などに水がたたえられ、花や木々が活けられているのは、清らかな水が満々とある様子を表しているといいます。
極楽浄土に人々を連れていったり帰したりは出来ないので、バーチャルな世界を作っているわけです。
現代では、福井県福井市の浄土真宗本願寺派の一乗山照恩寺でプロジェクタ投影と舞台照明を駆使して「テクノ法要」が行われたりしています。
これも現代の技術を用いた極楽浄土を表す方法ではないでしょうか。
仏教や宗教という概念を人々に伝えることはなかなかに難しいことです。
だからこそお寺は先進的な技術や手法が生まれると積極的に導入してきた歴史があります。
今、名刹といわれているところも創建当時の最先端が取り入れられたからこそ貴重だと言われるわけです。
常に時代の最先端を取り入れる、そして時代の波によって淘汰されていく中で本物の寺院だけが今も残っているのだと思います。
寺院存続が危ぶまれている現在、ただ単に昔と同じスタイルなだけで過ごしているところはないでしょうか。