コストコは同一労働同一賃金

滋賀県高島市饗庭山法泉寺住職の吉武学です。
人生のお悩み終活のご相談をはじめ遺言・相続・葬儀・埋葬のお悩みに「三つのそうだん」でお応えします。

行政書士として、色々な業界の経営者の方とお会いすると必ず出てくる話が従業員と賃金の悩みです。
現在の従業員はどんどん高齢化して賃金が高くなってきています。
間もなく定年なので期限もあるのですが、国は高齢者雇用を進めようとしているため、さらに延長して雇用することを考えなければなりません。

一方で、長期に渡って勤務してもらう人を確保するため募集をかけるのですが、どの職種も応募の時点で少数だと言われます。
ハローワークなどでの他社との条件比較を良くするために賃金等を挙げることも考えますが、単に賃金だけで済まず、社会保険料など他のことにも波及するため、安易には上げられません。

ある施設では、パートタイマーの募集をかけるのですが、市内の同業種施設よりも最初の賃金が少し低いため、なかなか応募してもらえないそうです。
ただ施設の費用で受けられる研修などを元に国認定の資格を取れば、むしろ上回るとのことですが、ハローワークの限られた記載スペースの中で、そこまで読み解いてもらうだけの内容を書くのは難しいとのことでした。
また、パートタイマーで実際に働かれる方は扶養の範囲内を意識するため、賃金単価が上がってしまうと一ヵ月の勤務時間も年間の勤務時間も限られてきます。
そのためあまり上げていけないとなると、今度は不要を超えて働きたい若い人にとっては将来的に希望を描けない内容となってしまいます。

こうした雇用の問題は、戦後の国が想定したモデル家族と現在の家族形態が合っていないことから起きていると感じます。
戦後の国のモデル家族は、夫は終身雇用のサラリーマン、妻は専業主婦、子どもは2人の核家族が想定されています。

現代は、未婚や子無しも多く、性別に関係なく働き続ける人も多くなりました。
モデルに当てはまらない家族は税制や社会保障の面でも不利益が出ることが多くなっています。

そして、このモデルの根幹となっているのが、終身雇用制度とメンバーシップ型雇用です。
終身雇用を前提としていると、若年層の賃金が抑えて退職金によって生涯賃金のバランスを取る仕組みになります。
このため、勤め続けないと損になるような心理的な仕掛けが働きます。

また、メンバーシップ型雇用では、新卒一括採用して働き始めてから部署や職務を割り当て、マルチ人材を作りますが、スペシャリストはなかなか育ちません。
このため賃金も勤続年数、年齢、役職などの影響が大きく、転職への心理的な負担を高めています。

これまでの経緯や現在の状況を全く無視するのであれば、一番分かりやすいのは同一労働同一賃金にすることです。
実際、国においても、同一労働同一賃金が言われ、ガイドラインを掲げています。

・厚生労働省 「同一労働同一賃金ガイドライン」

現に、最近になって新たに参入してきた企業、例えばコストコでは、管理職を除いて正社員もアルバイトもパートタイマーも時給制で、同一労働同一賃金となっています。

日本で同一労働同一賃金がなかなか進まない理由は、これまでの経緯や制度からの変更で影響を受ける人が多いという点に尽きるでしょう。
ちなみにコストコでは、店舗間でも賃金が統一されており、地域ごとに金額が変わるということもありません。

実際のところ、ガラガラポンで賃金の仕組みをやり直してみて、同一労働同一賃金とするとどうなるか予想してみます。
正社員の数は今よりも限られ、より業務のスペシャリスト化が求められ、少数の人に高額の賃金が支払われることになるでしょう。
一方で、正社員として採用されない数が大きく増え、アルバイトやパートタイマーに誰もができる仕事が割り振られることになり、賃金は下がるでしょう。
このため、同一労働同一賃金であるが故に賃金格差が大きくなることになると考えます。

オランダでは、ワッセナー合意と呼ばれる政府・労働組合・経営者団体の間で結ばれた失業とインフレを防ぐための合意があります。
ワークシェアの分野でよく言われる合意ですが、これにより「賃金の抑制と労働時間の短縮」「減税と社会保障負担の軽減」「フルタイムとパートタイムの同一待遇」「労働時間の自由な調整」が実現しています。
一方で、労働時間の減少による賃金低下と言った問題も起きています。

社会の誰もが技能や知識によりスペシャリストとなることはできないので、同一労働同一賃金は毒の面も大きな制度だと思います。
しかし、これまでの日本型労働市場では、労働力の流動性が低く、モチベーションが上がらないことから、様々な分野で停滞が見られています。
実現しようと思えば、雇用に関する規制の緩和が必要になりすまし、そのことでの弊害も起きるでしょう。

ただ海外やコストコのように先行事例もあるので、全てとは言わずとも、もう少し日本でも取り入れられても良いのでは、と感じています。